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ガスデトネーション専門部会/部会長あいさつ

部会長 石井 一洋

 気相デトネーションは、その存在が知られるようになったのは19世紀末で、以後はデトネーションの開始や伝播機構、伝播限界などについて研究が行われてきました。その工業的利用については事例が無い訳ではありませんが、発破、火工品、固体推進剤、煙火といった火薬・爆薬類の工業的利用の認知度に対しては比較になりません。ですが1990年代から気相デトネーションを推進機関へ応用しようという研究が盛んに行われるようになり、現在は、デトネーションを燃焼室内に定在させる回転デトネーションが精力的に研究されています。

 多少の語弊を覚悟で言いますと、気体の燃焼は教科書的な理論はあるものの多くは定性的であり、半経験的もしくは現象論的な取り扱いが多い分野です。CJ条件から計算される気相デトネーションの伝播速度(CJ速度)は、実験値と良く一致する希有な例の一つです。その要因ですが、CJ速度の計算では支配方程式が1次元圧縮性流体の保存則に立脚しており、その流体力学的な特性に支配されている部分が多いからと考えています。ただし1次元デトネーションは不安定で存在せず、現実の気相デトネーション波面は3次元的な衝撃波構造を持ち、その衝撃波背後で化学反応が進行する、非常に複雑な場となっています。

 ところで近年の計測技術の目覚ましい進歩にも関わらず、気相デトネーションが何故生ずるか、という根本的な疑問も未だ解決されていません。気相デトネーションが開始する時間・場所をピンポイントで予測し、その付近の温度・圧力分布を高い時間・空間分解能で同時計測することができれば良いのですが、これは現状では簡単ではありません。この点、数値計算であれば全状態量を把握することができるので、実験と計算の相補的な関係が大きな武器になると思っています。とくに数値計算は、CPUパワーの飛躍的な増大だけでなく、圧縮性流体の計算スキーム、stiffな化学反応方程式の計算スキーム、計算格子の取り扱い技術の進歩により、以前では考えられなかった高い空間解像度での非定常多次元計算が可能となっています。なお、気相デトネーションは流体力学的特性に支配される部分が多いと前述しましたが、それは化学反応を単に熱の入力と見なしたCJ速度計算での話となります。学問的な理解には、化学反応過程の深い理解が必須であることは言うまでもありません。

 気相の分野と火薬・爆薬類の固相の分野では、そもそも状態方程式が異なるため、お互いの研究者、技術者にとっては全くの異世界という感覚かもしれません。ただし世間では爆発・燃焼で括られますし、物理・化学にまたがる学問分野であることは共通しています。ガスデトネーション専門部会の今後の運営ならびに活動方法は、幹事の朝原誠先生とともに考えてゆく所存ですが、本専門部会の充実は火薬学会全体の発展に寄与するものと確信しており、会員の皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます。

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