2001年度火薬学会賞-奨励賞

熊崎美枝子君
「アゾール類の熱分解に関する研究」

　エネルギー物質の熱分解は，その応用を考える上でもっとも基本的な反応であり，エネルギー発生挙動を知るために極めて重要である。しかしながら，多くのエネルギー物質の熱分解反応は極めて複雑であり，その反応機構が十分に解明されている系はまれである。
　一方，近年の量子化学計算技術の進展により，複雑な分子の反応機構に関しても，実験では得られない反応経路やそのエネルギーに関する情報が量子化学計算から得られるようになってきた。こうした量子化学計算をエネルギー物質科学に導入することは今後の火薬学の発展のためにはぜひとも必要である。
　熊崎君の研究では，アゾール類の熱分解過程をFT-IRを用いて実験的に観測するとともに，量子化学計算により反応系のポテンシャル曲面を計算して熱分解反応過程を明らかにしている。ここで用いられている熱分解とFT-IRを組み合わせた手法による生成物の同定は，エネルギー物質の熱分解挙動を調べる方法として今後いっそう重要になると思われる。この手法によりアゾールの熱分解挙動が温度によって変わることを見出しているが，さらに量子化学計算により一重項と三重項のアゾールの分解経路の違いを明らかにしている。
　以上の研究は，エネルギー物質化学への量子化学計算の適用の有用性を示したものとして重要であり，奨励賞に値する研究成果である。量子化学計算を武器とした熊崎君の今後の研究の展開を期待したい。

推薦論文
「有機アジ化物の熱安定性に関する研究」
　―火薬学会誌Vol.62，No.2，102（2001）
「アゾール類銅錯体の特性」
　―火薬学会誌Vol.62，No.3，109（2001）
「1H1，2，4-トリアゾールの高速熱分解に関する研究」
　―火薬学会誌Vol.62，No.3，147（2001）

略歴

2001年3月	東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻修了
2001年4月	独立行政法人産業安全研究所化学安全研究グループ研究員現在に至る

奨励賞は，火薬関係科学又は技術に著しく貢献し，成果を会誌又は論文誌に発表した若手社員に授与しています。