爆発が周囲に与える被害を予測ため,および爆風を軽減できるような構造物を検討するため等に大規模の野外爆発実験が行われてきた。しかし,我が国では野外実験ができるような場所は陸上自衛隊の演習地等に限定されており,その実施は容易ではない。このため,小規模の実験で大規模の実験を予測できるような手法の開発が望まれていた。
水書君の研究では,微小のアジ化銀を用い,それを適正に起爆することにより,大規模実験の現象を模擬しようとした。その成果の一つは微弱衝撃波背後の密度分布の計測である。「デジタル位相ホログラフィ干渉計法」と呼んでいる独自の改良法を用いて,間延びした干渉縞であっても定量的な計測を可能にした。本手法は,発破作業での騒音の伝播解析,水中衝撃波の伝播研究など,マッハ1前後の衝撃波あるいは音波が関与する物理現象解明へ貢献が期待できる。もう一つの成果は,複雑空間中を伝播する衝撃波伝播特性を実験的,数値解析的に精度よく解明し得たことである。実験では,従来にはない有効視野径1mの大視野ホログラフィ干渉計を用い,現存する建屋を縮小したアクリル製模型内部で微小爆薬を起爆し,模型内部の衝撃波伝播の時系列を干渉縞画像として明瞭に観測している。大視野ホログラフィ干渉計を用いて模型各部の詳細な干渉縞分布とともに最大長74cmとなる縮尺模型全体にわたる衝撃波伝播の全容が一画面で記録されており,衝撃波伝播特性がよくわかる。一方,数値解析は,3次元オイラー方程式を流体支配方程式とし,爆薬の起爆過程から忠実に実行された。その結果,爆源から遠方では衝撃波の度重なる回折と計算格子間隔の影響によって先鋭な圧力上昇こそ再現されなかったが,到達時刻,圧力上昇の絶対値等はよく再現されており,特筆に値する。
以上の研究成果は,爆発災害低減化のための研究および評価に利用できる基盤的な研究であり,今後の研究展開が期待される。よって奨励賞に値する。
1991年3月 | 東京理科大学理工学部物理学科卒 |
1991年4月 | 日本原子力研究開発機構(動力炉・核燃料開発事業団(当時))入社 |
1997年4月 | 日本原子力研究開発機構(核燃料サイクル開発機構(当時))退社 |
2001年3月 | 東北大学大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻博士後期課程修了 (流体科学研究所 衝撃波研究センター 高山研究室) |
2001年4月 | 米国NASAラングレー研究所 客員研究員 |
2002年4月 | 防衛庁技術研究本部第1研究所 任期付研究員 |
2005年4月 | インド科学大学航空宇宙工学科 客員研究員 |
2006年4月 | 東海大学工学部航空宇宙学科 専任教員(助教授) 現在に至る |
奨励賞は,火薬関係科学又は技術に著しく貢献し, 成果を会誌又は論文誌に発表した若手社員に授与しています。