ヒドラジンは宇宙推進の世界で,姿勢制御用あるいは軌道変換用スラスタのモノプロペラント・バイプロペラントとして広範に使用されている。しかし,その燃焼反応機構については不明な部分が多く,スラスタ運用に関しては経験則に頼る部分が依然として大きい。2010 年の金星探査機「あかつき」のスラスタの失敗も,この領域の理解が十分であったならば未然に防ぎえたと考える識者は少なくない。
大門優君は,本研究でヒドラジン/二酸化窒素間の自着火現象に着目し,理論的研究を展開した。両分子が会合し低温でも着火に至る機構について,まず熱力学諸パラメータを量子化学計算により評価した上で,初期素反応群であるヒドラジン分子からの水素引抜き反応について詳細な検討を実施した。遷移状態理論に基ずく単分子用ソルバを使用し,N2Hm+NO2(m=1-4)の各反応速度パラメータを得ることに成功し,この4 つの反応群がヒドラジン/二酸化窒素の低温着火を実現するに十分な役割を果たすことを見出した。
本研究の結果は,多岐にわたるヒドラジンの燃焼化学に大きな知見を与えている。今後の宇宙機用スラスタ技術に与える影響度は高く,奨励賞に値する。
2005年3月 | 慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻後期博士課程修了 |
2005年4月 | 宇宙航空研究開発機構 宇宙航空プロジェクト研究員 |
2007年1月 | University of Illinois at Urbana-Champaign, Center for Simulation of Advanced Rocket, Post Doctoral Research Associate |
2008年8月 | 宇宙航空研究開発機構 招聘研究員 |
2012年4月 | 宇宙航空研究開発機構 開発員 |
奨励賞は,火薬関係科学又は技術に著しく貢献し, 成果を会誌又は論文誌に発表した若手社員に授与しています。