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2018年度火薬学会賞

論文賞
加藤 勝 美 君 , 福井 里望 君 , 東 英子 君 , 松永 浩貴 君 , 川口 周平 君

「酸を混合したニトロセルロースの熱分解挙動に関する研究」

 加藤勝美君,福井里望君,東英子君,松永浩貴君および川口周平君は,ニトロセルロースの自然分解に関する研究を精力的に進めてきており,その過程で得られた研究成果として,酸を混合したニトロセルロースの熱分解挙動に関する研究成果を2018 年中にScience and Technology of Energetic Materials 誌にて3 報発表した。
 ニトロセルロースの自然分解においては,製造過程でニトロセルロースの繊維中に残存する酸分や分解過程で生ずる酸が分解反応を促進することがよく知られている。そこで,ニトロセルロースに硝酸,硫酸および塩酸をそれぞれ混合した場合の熱分解挙動を,DSC やC80 を用いた熱分析により検討した。その結果,塩酸との混合物の分解挙動はニトロセルロース単体とほぼ変わらず,塩酸はニトロセルロースの分解反応に関与していないと考えられること,硝酸および硫酸との混合物は,加熱過程での分解開始温度や等温過程での分解待ち時間がニトロセルロース単体に比べて低くあるいは短くなり,分解反応を促進し安定性が悪くなることを示した。さらに,分解反応の促進の度合いは,硝酸と硫酸の酸の種類のみならず,加熱速度や試料容器が密閉であるかどうか,さらには試料容器の容積の大小によって変化することを明らかにし,水分の吸熱,酸濃縮による加水分解促進,気相中の酸の反応関与等が原因であることを示した。加えて,熱分析結果の速度論解析で得られた活性化エネルギーと頻度因子との関係(補償効果)から,硫酸との混合物の分解機構がニトロセルロース単体や硝酸との混合物の分解機構とは異なるものであることを明らかにした。
 これらの研究成果は,ニトロセルロースの自然分解反応の理解を深化させるものであり,重要な火薬類の一つであるニトロセルロースの保安への貢献は高く評価され,火薬業界の発展に寄与するものであり,火薬学会論文賞に値する。

推薦論文

  1. Thermal decomposition behavior of nitrocellulose/acid mixtures in sealed and open systems, Sci. Tech. Energetic Materials, Vol.79, No.1, pp.22─27( 2018)
  2. Thermal decomposition behavior of nitrocellulose mixed with acid solutions, Sci. Tech. Energetic Materials, Vol.79, No.2, pp.43 ─48( 2018)
  3. Influence of sample container volume on the thermal decomposition behavior of nitrocellulose/acid mixtures, Sci. Tech. Energetic Materials, Vol.79, No.6, pp.180─185( 2018)

加藤 勝美 略歴

1998年4月 東洋大学工学部応用化学科卒業
2002年4月 東洋大学大学院工学研究科博士前期課程修了
2005年3月 東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了
2005年3月 博士(環境学)取得
2005年4月 独立行政法人産業技術総合研究所爆発安全研究センター特別研究員
2009年4月 福岡大学工学部化学システム工学科助教
2011年4月 福岡大学工学部大学安全システム医工学研究所所長(兼務)
2015年4月 福岡大学工学部化学システム工学科准教授
2019年2月〜9月 チェコ共和国パルドビッツェ大学客員研究員
  現在に至る

福井 里望 略歴

2016年3月 福岡大学工学部化学システム工学科卒業
2018年3月 福岡大学大学工学研究科化学システム工学専攻修了
2018年4月 カヤク・ジャパン株式会社 延岡研究部
  現在に至る

東 英子 略歴

福岡女子大学卒業後,福岡大学工学部化学システム工学科 副手,助手を経て
2003年4月 福岡大学工学部化学システム工学科併任講師
2007年4月 福岡大学工学部化学システム工学科助教
2011年4月 福岡大学安全システム医工学研究所研究員(兼務)
2014年9月 博士(工学)取得
  現在に至る

松永 浩貴 略歴

2010年3月 横浜国立大学工学部物質工学科卒業
2012年3月 横浜国立大学大学院環境情報学府環境リスクマネジメント専攻博士課程前期修了
2012年3月 博士(工学)取得
2013年4月 日本学術振興会特別研究員(DC2)
2015年3月 横浜国立大学大学院環境情報学府環境リスクマネジメント専攻博士課程後期修了
2015年4月 福岡大学工学部化学システム工学科 助教
  現在に至る

川口 周平 略歴

1996年3月 東京大学工学部化学システム工学科卒業
1998年3月 東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻修了
1998年4月 日本油脂株式会社(現在の日油株式会社)社員
  現在に至る

論文賞は,火薬関係科学又は技術に関し,顕著な論文を論文誌に発表した社員に授与しています。

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