伊東山登君は,スラスターシステムを模擬した多光子イオン化飛行時間型質量分析法(MPI/TOF-MS)を用いて,Hydroxylammonium nitrate(HAN)の熱分解生成物及びそのIrベース触媒の有無による変化について実験的研究を行い,これらの研究成果を研究論文としてScience and Technology of Energetic Materials 誌に発表している。
HAN は低毒性や低凝固点などの利点から,Hydrazine の代替一液推進薬として注目され,広く研究されているが,その反応機構に関するもの,特に触媒存在下での研究は限られている。
伊東山登君らは,TOF-MS で分解ガスのリアルタイム分析を行うにあたり,サンプルのインジェクター部分に触媒を置くことにより,実際のスラスターの仕組みと同様に熱した触媒に推進薬が噴霧されるようにした。また,穏やかなイオン化手段としてMPI を組み合わせることでイオン化段階での分解を抑制する等,新たな手法の導入に積極的に挑戦している。
さらに伊東山登君らは,この分析手法を用いてIr ベース触媒の有無による反応機構の違いを実験的に考察した。触媒のない状態でのHAN の反応機構解析では,既往の研究を支持する結果と共にいくつかの新たな反応種が観察されたことを報告している。また,触媒のある状態での解析では,触媒がNH2OH とHONO の間で反応を促進する可能性を見出している。
今回得られたこれらの知見は,HAN の理論計算の精度向上への貢献が期待され,スラスターシステム燃料として実用化する上で有益なものである。よって,火薬学会奨励賞に値するものであり,今後も研究が継続,発展することを期待したい。
2014年3月 | 九州大学工学部物質科学工学科 卒業 |
2016年3月 | 東京大学工学系研究科化学システム工学専攻 博士前期課程修了 |
2016年4月 | 東京大学工学系研究科化学システム工学専攻 博士後期課程入学 |
2018年4月 | 日本学術振興会 特別研究員(DC2) |
現在在学中 |
奨励賞は,火薬関係科学又は技術に著しく貢献し, 成果を会誌又は論文誌に発表した若手社員に授与しています。