松永浩貴君は,「Influence of copper compounds on the exothermic reactions of an ammonium dinitramide-based energetic ionic liquids」,「Feasibility evaluation of the nitration of potassium sulfamate using a small continuous reactor」としてScience and Technology of Energetic Materials誌の発表している。
小型ロケットや超小型衛星の液体推進剤としてヒドラジンが広く使用されてきた。ヒドラジンは,触媒の存在下で容易に分解して高温のガスを形成し,室温で保存できるが,毒性が強く,引火しやすいため,取り扱いが難しく,コストが高騰する。液体推進剤の主剤としては,ヒドラジンよりもエネルギー発生量が多く,毒性も低いものの登場が期待されている。
本研究では,ヒドラジンに代わるアンモニウムジニトラミド(ADN)に注目し,ADN系液体推進剤の実現に向けて合成方法を提案し,熱分析による評価を行なっている。共晶混合物からエネルギーイオン液体推進剤(EILP)を調製し,その組成はADN,硝酸モノメチルアミン,尿素としている。この組成により計算上では,ヒドラジンを上回る推進性能(比推力)を有する。しかし,原料となるエネルギー物質の合成コストが高いこと,この組成のEILPの熱分解には高いエネルギーが必要なことが課題である。これらの問題を解決するために,小型反応器を用いたADNの連続合成を試みて実現可能性を示すとともに,塩基性硝酸銅(BCN)を添加することによってADN系EILPの熱分解が促進され着火性が向上することが分かり,そのメカニズムを明らかにしている。
松永浩貴君の研究は,宇宙機の液体推進剤としてのエネルギーイオン液体推進剤を合成し詳細な分析を行い,革新的な組成と調製方法を提案するものであり,今後の新しい液体推進剤の発展が期待される。この研究成果は高く評価され,当学会に大きく貢献するものであり,火薬学会技術賞に値するものである。
2010年3月 | 横浜国立大学工学部物質工学科 卒業 |
2012年3月 | 横浜国立大学大学院環境情報学府環境リスクマネジメント専攻 博士課程前期修了 |
2013年4月 | 日本学術振興会 特別研究員(DC2) |
2015年3月 | 横浜国立大学大学院環境情報学府環境リスクマネジメント専攻 博士課程後期修了 |
2015年3月 | 博士(工学)取得 |
2015年4月 | 福岡大学工学部化学システム工学科 助教 |
技術賞は,火薬関係技術の進歩に貢献し,成果を会誌又は論文誌に発表した社員に授与しています。